VOL / PEOPLE 004

KYOTARO SUGAWARA

地元の川と向き合う人:菅原協太郎

ひとつの何かを追求するときに、それを何のためにやっているかという観点は、非常に重要な要素だ。仕事のため、他人のため、自分のため。。。でも、それより重要なポイントが間違いなくある。それは、理由はわからないがそれが好きだということだ。北上川、和賀川をはじめ魅力的な川に恵まれた環境北上市にて、釣りを通して川と向き合いはじめて15年以上。釣れる釣れないを通り越して、好きな釣りと川をどう追求できるのか。それは仕事でもなく、誰のためでもない、自分とどれだけ勝負できるのか。この一歩先と向き合うことで、自分の好きな釣りと川のことをまた何かひとつ知ることができる。彼の釣りと川との向き合いは、好きなことを追求するために必要な、自分自身との向き合いに他ならなかった。釣りを通して地元の川と向き合う人、菅原協太郎さんを追った。

2年前の春、この川で産まれたサクラマスの稚魚は一年間を川で過ごし、翌年の春に海に下る。海で一年間過ごし、大きく成長したサクラマスは、産卵の為にまた産まれた川に帰ってくる。5月・6月、今年も地元河川にサクラマスが帰ってきた。このシーズンは年間を通してもっとも頻繁に川に足を運ぶ時期だという。北上市街からほど近いエリア。仕事勤務前後の1時間でも無駄にはできないほどに、川に向かう。協太郎さんは、一般的にみてポイントへの道が過酷な場所でも、どんどん足を進める。大量の毛虫、前も見えない薮、沼、そして、、、熊の形跡。もちろん万全の準備と経験値があってこその行動だが、人が足を踏み入れている形跡がほぼない現場を見ると、一般的に避ける人が多いのは素人の私でも感じとれた。過酷な環境であっても、素通りできないほど魅力的な釣り場があるのと同時に、過酷だと一歩引いたら何も生まれないという探究心の深さから出る一歩だ。たとえ釣れなくても、その時々の川の姿と特徴を知り大事な経験値にすることができる。理想の魚に出会うために探究する川との向き合い方だった。

Location:和賀川下流(北上市)

水量情報のチェック、仲間との情報交換、道具の下準備。釣りを楽しむために欠かせない事細かな作業。川の水量は、ダムの放流調整によって、数時間で深さが1mほど変わることもあるという。特異な天候もあって、今年は例年に比べて水量変化も読みづらい年となったそうだ。サクラマスは、食性からルアーに食い付く訳ではなく、遡上中の自分のテリトリー、いわゆるナワバリに入ってきた小魚を攻撃する習性でルアーに噛み付くそうだ。川にサクラマスがいたとしても、活性の低い状態であればルアーを追いかけてはこない。川の状況などによっては、やる気のない状態にあることも多々あるとのこと。サクラマス釣り密着4日目、待望の魚体にお目にかかることができた。シーズン中盤にしてはコンディションが良く、いい体格だと満足な協太郎さん。北上エリアで釣れるサクラマスは、海から約150キロ程の距離を遡上してきている。道のりの途中で自分に釣れてくれたことに感謝し、ほとんどの魚はリリース(川に戻す)する。しかし、シーズン序盤に河口付近で釣れる魚は脂が多く、食べても非常に美味しいため、年に数本は食べることもある。私も食べさせていただいたが、まさに旬のものと言える素晴らしい美味さであった。

Location:和賀川(北上市)

ここは元小岩釣具店(北上市)。協太郎さんが足しげく通ったお店であり、お店が閉業した今でもたまに訪問しては、元店主の小岩さんと釣りや近況などの世間話で盛り上がる。店内はもう昔の釣具店の装いはなく、小岩さんが趣味で描く油絵が飾られている。取材時、協太郎さんが依頼していたお気に入りの川の絵が完成間近になっていた。とても繊細な絵である。いろんな人とのつながりをつくってくれた、そして釣りにのめり込むきっかけにもなった大事な場所、小岩釣具店。

Location:小岩釣具店(北上市・現在は閉店)

協太郎さんのライフスタイルでもうひとつ欠かせないもの、スケートボード。中学2年の時に始めたスケートボードもまた、大人になっても変わらず楽しんでいる大事なライフスタイル。スケートボードがなぜ好きかという問いに、「スケートボードも釣りと同じで自分次第だからおもしろい」と協太郎さん。例えば団体競技のスポーツをするのと違い、釣りもスケートボードもすべて自分個人完結。やるやらないも自分で決めて、ペースも自分次第。好きなときにやって、好きなときにやめる。そんな要素が、自分に合っているんだろうと話す。『自分次第』このワードは決して楽な道ではない選択肢を表す気がするが、でもそこに楽しいということが加わると、それは全く苦難ではなくなる。自由な発想で誰に何を言われることもなく自分なりに楽しむ。そんなライフワークがあること自体、魅力的なライフスタイルだ。

Location:北上市街

7月、西和賀町湯田・沢内の和賀川上流にての渓流釣り。「サクラマス釣りと違って、渓流では何かしら魚は見れると思います。」と協太郎さんが言う通り、開始早々にヤマメ、イワナの姿を見る。水の流れも比較的静かで、穏やかな釣り場かなと思ったのもつかの間、やはり過酷な道のりに進んでいく協太郎さん。久しく誰も来ていないであろう草木で塞がれた道。一歩足を踏み外せば大怪我・大事故間違いなし。釣り場では、気づけば足元に蛇。まるでインディージョーンズだ。とはいえ実際、カメラを持っていただけで釣りをしていない私も、まずこの機会が無ければ目の当たりにすることはなかったであろう景色に興奮と感動を覚えた。一歩二歩足を進めると違う景色が広がる。同じ川、同じポイントでも一日一日状況は変わっていく。二度と同じ条件はないし、絶対もない。正解がないから楽しい。地元の川と向き合う協太郎さんは、これからもそうやって生きていくのだろうと、ライフスタイルの魅力を感じさせてくれた。

いかに自分の生活の中に好きなこと、好きなものを見つけて、自分なりにどれだけ探求していくか。魅力的なライフスタイルをつくるための大事な要素であることを改めて感じさせてもらった今回の取材。いろんな意味で、無駄に踏み入るべきでない場所へ同行させてくれたことに感謝して、この記事を閉じる。

Location:和賀川上流(西和賀町)
菅原協太郎
1986年生まれ、北上市出身。黒沢尻北高校卒業。10代から釣りをはじめ、北上市を中心に県内、県外でも釣りを楽しんでいる。
取材:FOLKJOE 八重樫裕己

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