VOL / PEOPLE006

RYOTA KIKUCHI

地元の可能性を信じるバーガー屋:菊地良太

【前書きとして】2020年、新型コロナウイルス感染拡大。岩手においては感染者が確認されていない現状ではあるが、飲食店等を中心に多くの事業者が苦境に立たされている。この記事の取材は感染拡大以前から始まっており、3月上旬の公開予定であったが日々深刻化する状況を考慮し記事公開を自粛していた。4月末、菊地さんら有志が以前から仕込んでいたオリジナルビールが出来上がった。菊地さんはこのビールを飲んで決意した。「ウイルス拡散になるような動きを助長することは避けなきゃいけないし、落ち着くまで店内飲食営業も極力自粛しなければならない。でも、クリエイティブの手を止めてはならない。飲食店を潰してはいけない。この状況を受け入れて、前を向いて明るい未来を作らなければならない。」これは、苦悩の状況下の中そう決意した菊地さんの想いを借りて、全ての頑張っている人へのエールの意味合いも込め公開する記事でもある。...以下記事本編。


奥州市江刺にあるハンバーガー屋『GROW』。この小さな街で1,000円以上もするハンバーガー屋がうまくいく訳がないと批判的な声をかけられながらも2016年にオープンをさせ3年が経過。こだわり抜いて丹精込めたハンバーガーの美味しさは徐々に地元に定着しはじめ、地元外からも足を運ぶ人が増えている。そんなハンバーガー屋オーナーの菊地良太さん。子どもの頃に自宅前にあったハンバーガーの自動販売機が与えた、ハンバーガーへの馴染み。様々な飲食店での経験を経て、自分でやりたいと辿り着いたのは、心に残っていたそのハンバーガーというジャンルだった。江刺には新しいカルチャーだったハンバーガー屋をかまえてみて強まったのは、自分の店にどうやったら人が来てくれるかという枠を飛び越えて、自分の住む街にどうやったら人が来てくれるか、どうやったらこの街を好きになってもらえるか、という思いだった。新しい試みを止めることなく、地元にある魅力とその可能性を信じる人、菊地良太さんに迫った。

ハンバーガーは、挽肉ハンバーグがパンに挟まっていて、、、そんな単純なイメージを持っている方も少なくないはず。特に地方においては、本格的なハンバーガー屋も少ない分、手に取りやすいファストフード店のハンバーガーが一般的なハンバーガーになっているのは間違いない。そのイメージからすると『GROW』のハンバーガーは別ジャンルのものとも言える。まるでステーキを食べているかのような。。。パティ(肉)は、いろいろなブランドから仕入れては試作を重ねて辿り着いたアメリカ産アンガス牛の肩ロースを使用。塊を捌くところからスタートし、筋や油を取り除き、各部位の細かい特徴に合わせて、カットの大きさを変え、食感や味わいを調整していく。

Location:GROW(奥州市)

1日分のパティにかかる相当量の仕込み作業。毎日のルーティーンとはいえ、想像するにそう容易な作業ではない。お店の営業が深夜にまでおよぶ時でも、閉店後に翌日分のパティを仕込む。GROWに限ったことではないはずだが、我々が美味しいと味わう格別なものは、当たり前ではなく、見えないところで相当の努力がなされていることを痛感させられる。菊地さんのハンバーガーづくりは、あくまで菊地さんのライフワークのベースである。冒頭にも述べたように、いかに自分の店に人が来てくれるかを飛び越え、いかにこの街に人が来てくれるかを考える菊地さんは、このハンバーガーづくりの枠を超え、地域のイベントや事業などにも積極的に参加している。「電車も高速道路も通らないこの小さな街に、いかに足を運んでもらえるか。食材や特産物や文化など、この街にあるたくさんの魅力と可能性をどうやったらもっと知ってもらえるか。」そう語る菊地さんは、ハンバーガー以外にも思考を凝らし、新しい試みに日々チャレンジしている。

Location:GROW(奥州市)

他業種の人の力を借りて自分の感性の具現化にチャレンジする菊地さん。ハンバーガーにとどまることなく、商品を生み出そうと訪れたのは、奥州市水沢にある老舗和菓子屋さん『菓子処後藤屋』。後藤屋名物でもある『麦つき節』。小さな頃に親戚がいつもこの麦つき節をお土産に持ってきてくれていたことで、菊地さんにとって後藤屋さんは馴染みのあるお店であった。アメリカンカルチャーにあるハンバーガーと、日本の伝統和菓子を組み合わせたら、どんな化学反応が起こるのか、そんなワクワクを胸にオリジナルのどら焼きを企画提案。人気の後藤屋のどら焼生地は、過去どのお店ともコラボをしたことは無いそうだが、菊地さんの熱意を快く受入れた後藤屋代表の後藤大助さんも、新しいアイデアに心を踊らせているようだった。引き続き販売実現に向けて試行錯誤を進めているが、新型コロナウイルス感染症の影響もあり商品完成はまだ先となりそうだ。異色のコラボどら焼き完成の日が近く来ることを心から期待している。両店のSNS等をチェックして今後の動向を追いたい。

Location:後藤屋(奥州市)

遠野市『遠野醸造』。先に述べているように菊地さんは、地元の魅力を活かしていかに地元江刺に足を運んでもらえるか、地元江刺を好きになってもらえるかを考えている。そして地元外をリスペクトしてチカラを借りることも、地元の魅力を活かすのに大切だと思っている。地元江刺の名産、りんご。そのりんごを活かすため、同級生で江刺のりんご農家兼ダンサーのSHUN-Cさんと共に、りんごビールをつくることにも動いた。りんごの香りが引き立つようスパイスをチョイスし、作業を手伝わせてもらいつつビールを仕込む菊地さん。バーガーとも相性のいいビールを、地元ならではの要素を盛り込んで製作する。多くの人に、そんなオリジナルを味わいにきて欲しいとチャレンジを繰り返す。仕込まれたオリジナルりんごビールは、GROWと遠野醸造TAPROOMにて、生ビールにて数量限定で提供予定。(新型コロナウイルス感染症の影響により発売時期等は変動します。詳細はそれぞれのホームページやSNS等にて。)

Location:遠野醸造(遠野市)

2020年4月、遠野醸造にて製造したオリジナルビール『岩本りんごHazy Saison(ヘイジーセゾン)』が完成した。プロデュースしたGROWの菊地良太さん。ビールの素材になったりんごを育てた同級生、岩本りんご園のShun-Cさん。同じく同級生でロゴデザインを担当した高橋公さんと、菅原隼樹さんの4人による完成試飲。地元同級生がそれぞれのアイデアと特技を活かし作りあげるビールは、たくさんの人に味わってもらいたいスッキリとした爽快な1杯に仕上がっていた。冒頭でも述べたように、菊地さんは、コロナウイルス感染症終息までの間はできる限り自粛を推奨し、店舗もしばらくの間テイクアウト中心の営業としている。(GROWの営業と岩本りんごHazy Saison販売についての詳細等はGROWのSNSをご確認ください)


ウイルス感染拡大に最大の注意をはらいながら、最大限の自粛と、最小限の営業を行う状況でも、決して全てが無になったわけではない。今ある環境で自分たちは何ができるのか。。。菊地さんは悩みに悩んだ末、この限られた環境を、むしろ新たな挑戦と捉え楽しんでいるようでもあった。なんとかなる!なんとかする!負けない!みんなで!そう強い思いを胸に菊地さんは今日もバーガーをつくり、未来を見据える。この状況が終息したときには、さらに楽しい世界が待っていることを信じて、この記事を閉じる。

菊地良太
1986年生まれ、奥州市江刺出身。駿台甲府高等学校通信教育部卒業。幼少期より父の影響で洋楽や洋画、ハーレーや外車など、特にアメリカンカルチャーに興味を持ち、当時身近にあったバーガーの影響などもあり30歳でバーガー屋を構える。
取材:FOLKJOE 八重樫裕己

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