VOL / PEOPLE 008

KUNIHARU TAKAHASHI

芸能を継承・伝承する人:高橋邦治

伝承の由来は1300年も前に記するという。岩手県北上市に現在も躍々と受け継がれている「鬼剣舞」。北上市内に13ある鬼剣舞団体のうち、昭和16年発創の鬼柳鬼剣舞にて、師匠のひとりとして、そして一剣舞(白面:踊り手のリーダー)として継承・伝承を行い、長く精力的に活動を続けている高橋邦治さん。踊り手としての活動だけではなく、おなご剣舞・子ども剣舞を含め鬼柳鬼剣舞全体の踊りの統括と指導にも尽力されている。一般的には夏まつりや芸能イベント等で見かけるだけ、ということが多い伝統芸能。その伝統芸能がいかに取り組まれ、なぜ途切れることなく受け継がれているか。強くブレない想いと共に活動をつづける高橋邦治さんを追った。

北上市立鬼の館での鬼剣舞公演。幾種もある舞の中から、白面ひとりでの演舞「一人加護」を披露する邦治さん。踊り終えた邦治さんは、疲れを見せぬ佇まいながらも、小さくも肩で息をしていた。私自身実際、鬼剣舞を最初から最後まで真剣に注視したのはこれがはじめてだったかもしれない。つま先から手指の先・采(ザイ)(頭にのせた毛)の毛先に至るまで神経が行き渡り丁寧に激しく踊られる舞。息が荒れぬ訳がない内容である。踊り続け継承されることが簡単ではないことをかすかに感じ始めた場面である。

Location:鬼の館(北上市)

采(ザイ)(頭にのせた毛)づくり。地域で継承されている伝統芸能であるため、当たり前ではあるが、衣装や道具についても大量生産がされ販売されているわけではない。基本地域内で生産もしくは手作りされている。鬼剣舞の頭にのせる毛『采(ザイ)』もまた手作りされている。馬の尻尾やたてがみの毛を材料としてつくる。丁寧に洗浄し、天日干しして臭いをとる。少量ずつ束ねて、麻紐に結んで連結させていく。

編まれた采を巻き土台を縫い付けていく。配色に決まりはないが、舞った時の印象をイメージしてかたちにしていく。ブラッシングし、バラけた毛をカットして整え、毛並みを揃える。上に向けた時に綺麗に立ち上がりながらもばらついて倒れるかどうか。束ねる毛の量と巻き数で仕上がりの印象が変わってくる。もはや職人の域である。代々のお師匠方などから継承され、邦治さんも自ら受け継いで手づくりしている采は、現在の鬼柳鬼剣舞の若手衆らが使用している。

め組(おなご剣舞)の練習と公演におじゃました。邦治さんは踊り手としてだけでなく、師匠として鬼柳鬼剣舞にある一軍・め組(おなご剣舞)・少年団(子ども剣舞)の指導と監督にもあたっている。鬼柳鬼剣舞としては年間を通して週3回の道場での練習に加え、県内外の各種イベント等での公演が行われる。特にめ組の公演前には円陣を組み、一人ひとりに声かけを行う。アドバイスというよりは、それぞれがいかに緊張をせず伸び伸びと、今出来る一番良い舞を踊れるか、それを引き出すための時間と見受けられた。ひと口に伝統芸能と口にしてしまうが、言うなれば精神を正すお稽古事でもあり、アスリートとしてのスポーツでもあり、まさに高校時代の文武両道的部活動を彷彿とさせる活動であると感じた。一時のことであればなんともないが、この立場を10年以上も続けていることはそうそう容易いことではない。

みちのく民俗村でのさくらまつり芸能公演と、盆供養での舞。コロナ禍で各種イベントが中止・延期とされる中、鬼剣舞の披露・活動の場も非常に狭く厳しいものになっている。この伝統芸能がしっかりと継承されているのには様々な要因があれど、モチベーションという要因は非常に大事なものである。語り継がれることと、踊り継がれること。歴史と先人の想いなどを常に勉強しながら繋ぎ続けていく、終わりもなく壮大な作業。日々コツコツと、何があれども、1日1日、丁寧に精進し、舞い、語り継ぐ。今まで続けられてきた鬼剣舞の伝承の背景や風景が、なぜか今のこのコロナ禍の耐え方、暮らし方を教示しているような気さえします。高橋邦治さんは、伝統芸能の中に身を置き、ひとりの踊り手として、見本となる人間として、いずれ来る世代交代を見据え、日々実直に芸能を継承・伝承する姿を示しておりました。鬼柳鬼剣舞の皆様他、撮影にご協力いただきました関係者の皆様に感謝いたします。

Location:みちのく民俗村(北上市)、鬼柳鬼剣舞供養塔(北上市)
高橋 邦治
1981年生まれ、北上市出身。岩手大学卒業。中学1年時に鬼柳鬼剣舞保存会入会。2011年より一剣舞。2017年秘伝書伝授式挙行、師匠となる。これまで、フランス、韓国、シンガポール、ブラジルでの海外公演にも出演。
取材:FOLKJOE 八重樫裕己

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