VOL / PEOPLE 005

YASUHISA WATANABE

地元を美しく写す人:渡辺靖久

プロからアマチュアまで、たくさんの人に楽しまれ愛されているカメラ・写真の世界。風景・ブツ撮りなどなど様々なジャンルがある中で、ポートレートというジャンルをもって、地元岩手の美しさを写す人、渡辺靖久さん(金ケ崎町在住)。先に言っておきたいが、肩書きだけで言うと、渡辺さんは現在カメラ関係ではない仕事をしており、ノンプロということになる。のだが、それ(ノンプロ)は単なる言葉の話。カメラ・写真の世界が、プロもアマチュアも関係なく、素晴らしい表現の場・活動の場になっていることを、この記事をもって、カメラを持たない人たちにも感じてもらえるんではないかと思っているし、筆者も取材をしてそれを強く感じている。カメラを通してつくる、渡辺さんの魅力的な世界観を追った。

2019年2月、奥州市黒石寺蘇民祭。例年にない大雪の現場。極寒の中一晩をかけて行われる蘇民祭の熱。その熱を撮らんと集まる多くのカメラマンたちの熱もまた相当なものである。そんな熱気の中、渡辺さんの密着はスタートした。 3月、場所は北上市みちのく民俗村。SNSにて知り合うモデルさんに来県いただいてのポートレート撮影。カメラ仲間と集い、モデルさんとのセッティングを行い、定期的に作品撮りを行なっている。モデルさんとSNSにて交流をしつつ、他県から岩手に来ていただいて撮影を行うのだが、ここには一切ビジネスは存在しない。撮りたい側と撮られたい側双方の熱意で成り立つ撮影会なわけだが、まずもって普段カメラ・写真に触れることのない人からすると、この部分に驚きがあるのではないかと思う(筆者もそうであった)。なんの為に撮るのか、なんの為に撮られるのか。答えは率直。撮りたいし、撮ってもらいたいのである。写真撮影というものの面白さと奥深さ、そしてそれをライフスタイルにすることの魅力こそが、まさになんの為に撮るのか・撮られるのかの答えなのだと、カメラのあるライフスタイルに興味が湧き出る。

Location:黒石寺(奥州市)/みちのく民俗村(北上市)

求道としての修行寺、大梅拈華山 圓通 正法寺。オフィシャルカメラマンとして正法寺の写真を撮り続けている渡辺さんが、正法寺との共同主催にて開催した正法寺撮影会。参加者は正法寺の精進料理をいただいたり、正法寺を舞台にして、モデルさんを立てての撮影会を楽しみました。この日の渡辺さんは、ときおりモデルさんへのポージングや撮影のコツのアドバイスなども行いながら、撮影者ではなく主催者としての一面を見せます。正法寺の魅力を共有し、存分に撮影を楽しんでもらおうという意図が見える企画でした。写真の撮り方の大きな要素に光の取り込み方というポイントがある。ロケーションの場面場面で、その光の写り方を察知する瞬発力は、誰にでも簡単に手に入れれるものではない。ロケーションの場所場所で、より美しく写る場所を察知し、モデルさんの立ち位置をセッティングし、参加者の方々にやんわりと撮る方向のアドバイスを送る渡辺さん。自分だけが自由気ままに撮る訳ではない撮影会の主催は、そう簡単なものではないと感じた。渡辺さんが撮影する正法寺の写真は、正法寺オフィシャルサイトにもたくさん掲載されている他、この撮影会で撮影された作品含め、正法寺門前にある観光案内休憩所「月江庵」内フリースペース「Monastery」にて展示されている。

Location:大梅拈華山 圓通 正法寺

11月、盛岡フォトフェスティバル。2017年から、盛岡を写真の盛んな街にしようという思いを込め、有志が集い運営・開催されている写真イベント。渡辺さんも実行委員会に所属し、運営に携わっている。イベント期間に開催された盛岡南昌荘での撮影会でも指揮をとり、たくさんの参加者さんが撮影会を楽しんでいた。2019年の写真展示会場、盛岡アイーナ。渡辺さんも作品を2点出展されていた。独特の雰囲気を醸し出す渡辺さんの写真には、一般的な写真のイメージから一歩、いや二歩三歩、アートという世界観へ繋がる作品へと仕上がっている。渡辺さんのカメラと感性を通過して出来上がる、渡辺さんの作品を次に掲載させていただきます。ここまでの記事にて見ていただいたような撮影風景にて、撮られ仕上げられる渡辺さんの作品の一端です。

Location:南昌荘(盛岡市)、アイーナ(盛岡市)

光と影を意識した独特な表現と、どこか懐かしいその作風は忘れかけている日本の原風景を感じさせる。(渡辺靖久さんプロフィールより引用)この一文の通り、光と影がことごとく美しく、そこにある地元風景の空気感までもをそのまま持ち帰り写真の中に閉じ込めたような、いや閉じ籠ってもいない、その写真から空気が溢れ出ているような、そんな作品たち。当然レタッチはされているが、決してコラージュではない。一例として「nano-hana」という作品を見ると、これは決して黒い雲を付け足し加工したわけではなく、たちこめる黒雲の隙間から陽射しが差し込んだそのいっ時に撮影されたものだそうだ。その現場のなんとも幻想的な風景を見事に写真の中に持ち帰り、作品に仕上げられている。

季節は再び冬。奈良県から岩手を訪れるモデルERIKOさんと、遠野市にて「遠野物語 雪女」をテーマとした撮影。渡辺さんは地元岩手で撮影を行うことに大切さを感じている。どこか遠くへ行く必要もなく、ここにある何気ない地元の風景。ふと気がついた今いるその場所の景色を切り抜いて、魅力的な1枚の写真に変える。モデルさんに立ってもらい、美しい1場面へと変換する。まるでいつも自分がいる場所ではないかのような、そんな1枚の写真が、改めて地元には魅力的なところがあるのだと感じさせてくれるという。素敵な写真を撮るたくさんのカメラマンがいる中で、渡辺さんの写真が渡辺さんの写真であるのは、そんな背景があるからではないかと思わされる。 『やーーーこの素晴らしさをどう表現したらいいかなーー!(ハイテンション)』渡辺さんが撮影ロケ中に感動の場面を目の当たりにした時に発する言葉である。渡辺さんの脳内でどんなインスピレーションと感覚が活性しているのか。そしてそれがどう写真として形になるのか。。。カメラのあるライフスタイルから生まれる『岩手の風景』。身近な場所や風景が新しい見え方をし始める。それはFOLKJOEのコンセプトとも重なるものである。各地撮影ロケに同行させていただいた渡辺さんはじめ関係者のみなさまに感謝するとともに、これからもこの地元が素晴らしい作品に昇華されていくことを楽しみにして、この記事を閉じる。

渡辺靖久
1975年生まれ、金ケ崎町出身。主に地元の風土や人を中心に撮影。主な活動【国内】・アサヒカメラ×東京カメラ部共催「日本の47枚」フォトコンテスト2017、2018入選 ・2017年6月富士フォトギャラリー銀座にて写真展「ethos」開催 ・岩手県正法寺Official Photographer 【国外】・2016年9月香港最大写真サイト「Photoblog.hk」特集掲載
取材:FOLKJOE 八重樫裕己

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