初夏の剪定。３年前に自身が造園した一般住宅の坪庭の剪定作業現場。オオツカヨウ建築設計（盛岡市）にて設計された、洗練されたデザインの住宅の中に設けられた坪庭スペース。いろんな人に「小原さんのテイストは和風ですよね」と良く言われるそうだが、決してそうではないと言う。前述したように雑木の庭は現代の環境に山（自然）の景色を採り入れるという目線がある。実際に、和風ではないこの住宅に施された坪庭は、とても建物にマッチし溶け込んでいるだけでなく、木々が生み出す光の遮りや陰影が、住む人の心地よさをつくり出す重要な要素となっていた。どんな生活にもマッチすることができる、自然の姿をつくりだしていた。

Location：一般住宅（盛岡市）

住宅設計：オオツカヨウ建築設計（花巻市）

現場は変わって、花巻市一般住宅。ガーデニングプランナー、Chloaの小山美樹さんプロデュースの庭づくりの石貼り作業。東北地域から仕入れた石をひとつひとつ割り、削り、バランスを取りながら施工していく小原さん。施工面積もなかなかの広さがある分、途方もない作業に見える。どの石をどこに配置し、どんなバランスに施すか、一度迷いだしたら正解が見えなくなるような作業である。石を見て把握しながら、感覚を信じて決断し次に進む。植栽だけが仕事ではない、あまたある庭仕事の作業に対する経験と感覚の賜物である。

Location：一般住宅（花巻市）

施工プランニング：Chloa（クロア）（花巻市）

季節は変わって、初冬。冬の庭の仕立て。場所は一関市、京屋染物店。店舗にある坪庭と工場正面の植栽・手入れを小原さんが担当されている。冬の仕立てで彩る庭は多くはない為、小原さんとしても貴重な坪庭とのこと。水を落とすカケヒと、霜避けの意味合いを持つワラボッチを手づくりして、冬仕様へと仕上げる。初冬とはいえ、手袋なしでは完全に手がかじかんでしまう寒さ。顔色ひとつ変えず素手で水作業をし、竹を削り、藁を編む。「冷たいですけどね、慣れですよ。」と平然としている。庭仕事の幅の広さを目の当たりにする。

Location：京屋染物店（一関市）

花巻市にある、茶道教室、表千家 不破社中にて茶道を習う小原さん。総合芸術と称される茶道は、あらゆる作法や芸術をたしなむ要素を持っているが、庭の景観もその一部として重要な要素を持つことから、実際に茶道を学び、庭仕事への知見を深めている。ただお茶をいただくだけではなく、お茶を美味しくいただくその一連の流れと環境に、あらゆる意味合いなどが有り、ひとつひとつに、日本人の心というものが現れているようだった。なぜこれはここにこうあるのか。茶道から見せられるその考え方は、自然そのものであり芸術でもある庭づくりというものと深く繋がっている。小原さんにとって茶道は、いい庭をつくるための大切な学びなのであろう。

Location：表千家 不破社中（花巻市）

再び季節は初夏。大胆に高木を植栽した小原さん作庭の、合同会社VIUSDESIGNWORKS事務所。植栽から２年目の夏を迎えての剪定作業。小原さんのご実家もまた造園業を営まれている。小原さんは東京から帰郷後、いちど実家の造園業を手伝ったのちに独立をしたわけであるが、独立の決心の中にひとつの強い想いがある。ひとくちに造園業務と言っても色々な種類があるわけだが、そのなかでも小原さんは、自分の目と手で庭をつくり、その庭を末長く面倒見ていきたいと言う。木のみにあらず、経年変化として生きていく庭と永くつきあい、育てていく作庭作業。数多くある庭仕事の作業をオールマイティにこなす小原さんの仕事力は、庭と向きあっていくために必要な知識と経験なのだ。魅力的な雑木の庭をつくる植木屋、小原良智さんの今後の更なる活躍に期待が高まる。

Location：合同会社VIUSDESIGNWORKS（北上市）

小原良智

1983年花巻市東和町出身。テクノ・ホルティ園芸専門学校造園学科設計専攻卒業後、東京都にある(有)石正園に入社。5年間の修行後、帰郷し実家の小原造園を手伝う。2011年4月、小庭事しみずさわを主宰。

取材：FOLKJOE 八重樫裕己